POINT なめらかなせん断面が得られ、後工程が不要となるなどの利点があるファインブランキング加工。加工可能な歯車仕様に限界のある技術でしたが、将来的なニーズ増に合わせて限界を超えた小モジュール歯車の製作に挑戦。モジュールの約10倍の板厚でも、安定的に打ち抜ける技術を確立しました。

研究に至る経緯

将来的なニーズ増に合わせて、FB加工による小モジュール歯車の製作に挑戦

打ち抜き加工のメリットは、繰り返し同じ形状のものを成形できることです。金型製作のイニシャルコストはかかりますが、大量生産時にはトータルコストを抑えられます。ただし、一般的な打ち抜き加工では、切断面の破断は避けられません。歯車など切断面を機能部として使用する場合は、後工程で切削加工などの二次加工が必須となり、そのぶん製造期間やコストが増加するという問題があります。

この問題を解決するのがファインブランキング加工(以下、FB加工)です。上下方向からの加圧で材料を拘束した状態でせん断し、静水圧効果を利用してなめらかなせん断面を実現します。後工程の二次加工が不要なうえ、短期間で精密な部品製作が可能です。三井三池製作所の精密機器事業本部では、このFB加工に注目し、自動車や農機に使用する歯車を50年以上にわたって量産し続けてきました。

メリットの多いFB加工ですが、金型の強度を考慮すると、一般的にモジュールの約3倍の板厚材料までが対応できる仕様の限界とされています。また、歯車のモジュールが小さくなるほど、金型も壊れやすくなるため、小モジュールの歯車にはFB加工が使えないこともありました。一方で、さまざまな機器部品の小型化・強度向上のニーズは増加傾向にあり、より小さなモジュールの歯車は、今後も電機・自動車業界からの需要増が見込まれています。

そこで、三井三池製作所ではFB加工に関する技術研究を深め、より小モジュールの歯車をFB加工で製造する工法の開発に取り組みました。

工夫した点・苦労した点

金型の精度向上に加えて、切り刃や加工法などについて試行錯誤を重ねる

三井三池製作所では「モジュールの約10倍の板厚材料へのFB加工」と「小モジュールの歯車を安定的に量産できる工法の確立」を本研究のゴールとして設定。開発後は、二次加工が不要になることによる工期短縮と費用軽減を自社の強みとし、電機・自動車業界をターゲットとした新規受注の獲得を目指しました。

本研究で特に工夫したのが、次の3点です。

  • 高精度な金型の製作技術
  • 打ち抜き面に亀裂を生じさせない切り刃形状と加工方法
  • 金型が破損しないよう負荷を集中させない打ち抜き工法

まず実施したのが、金型の負荷集中による破損を回避する工法の開発です。初期段階は、金型の破損が頻発しましたが、破損の原因を追及し、金型の設計・製作・改造を何度も繰り返すことで、負荷集中の起きない工法開発に努めました。また、同じように初期段階は頻発していた打ち抜き面の亀裂についても、切り刃の形状や加工方法についてトライ&エラーを重ねることで、亀裂の発生を抑えることに成功したのです。

工法の確立にめどが立った後は、量産可能なレベルに安定させるための工夫を凝らしました。金型製作精度の向上、プレス油の選定、金型の表面処理など、さまざまな条件を総合的な視点で組み合わせる必要があり、研究は困難を極めましたが、半年にわたって技術開発に取り組み続けた結果、ついに小モジュール歯車の安定した量産にも耐えられる工法を確立したのです。

成果と今後の展望

モジュールの約10倍の板厚でも、安定的に打ち抜けるFB加工技術を確立

今回の研究で確立した、モジュールの約10倍の板厚でも打ち抜けるFB加工の技術は、現時点では同業他社の追随を許さない唯一無二の技術です。通常であれば複数の機械加工を組み合わせて製作していた小モジュールの歯車が、FB加工だけで製造できるようになり、短納期・コストダウンを実現します。訪問先や展示会などでのお客様からの注目度は高く、三井三池製作所の技術力を広くアピールできているようです。すでに、これまで取引のなかった業種の新規顧客から注文を獲得できました。

三井三池製作所としても、これまでは対応困難として見積辞退していた仕様の歯車も、しっかり受注できるようになったことは大きなプラス材料です。また、本研究で金型製作技術を向上させたことは、会社全体の金型精度の向上、不良低減、生産性向上などに加えて、精密機器自体の技術力向上につながると考えています。そして、今回の研究で得た技術は、歯車だけではなく狭小部のある部品であれば適用可能なことから、歯車以外の部品への適用を進めています。

今後は、FB加工の基本技術を掘り下げることで、FB加工が可能な範囲をより一層拡大していく研究を続けていきます。そして、三井三池製作所が持つFB加工技術をより高度化していくことで、市場の拡大や新規受注の獲得につなげていく方針です。