POINT 三井三池製作所では、最新技術を取り入れた「新しいモノづくり」の実現に寄与する技術開発に取り組んでいます。AIやIoTの活用で産業機械の高度情報化を実現し、作業現場での効率化や少人化、機器の一元管理やメンテナンスなどの新たな価値を創造。お客様の利益に貢献できる存在であり続けることを目指しています。

研究に至る経緯

最新技術を取り入れた「新しいモノづくり」に資する技術の確立を目指す

三井三池製作所では、変化の激しい時代の中でも自立的発展を成し遂げ、企業としての競争力を高めていくため、常に新しい技術を取り入れながら、従来とは異なるモノづくりを目指すことが必要だと考えています。その方針の一環として取り組んでいるのが、AI(人工知能技術)やIoT(Internet of Things:情報同士の相互接続技術)を活用した技術開発です。

2017年に開始したこの取り組みでは、産業機械の高度情報化を通じて、Society5.0の実現やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの実践を進めていく上での、基盤となるシステムの構築を目指しています。例えば、お客様先で稼働するさまざまな産業機械に対し、次のような施策を実施していく方針です。

  • IoTデータ収集技術やAIによるデータ活用・知能化技術の組み込み(横への展開)
  • 各機械の役割・用途に合った付加価値を提供できる仕組みの構築(縦への深堀り)

その第一歩として研究開発を進めているのが、トンネル掘削工事に用いられるロードヘッダの自動自律運転です。通常ロードヘッダは、電気電子制御システムで油圧システムをコントロールし、シリンダーなどの機械機構を操作します。本研究では、人間がリモコンで操作する代わりに、AIが人間と同等の精度で、油圧の流量制御などの操作を実行できるようにすることを目指しています。

工夫した点・苦労した点

今後のデータ分析・活用を踏まえ、ゼロから新たに要素技術を開発

本研究で一部参考にしたのは、自動車業界で先行している自動運転技術です。自律化システムの基本技術領域である「認識」「判断」「制御」という3つの技術について、自動車に導入されている普及技術やロボティクス分野のソフトウェア資産などを参考にしました。しかし、重量50tを超えるロードヘッダが稼働するのは、GPS電波が届きにくいトンネル工事の現場です。さらに、掘削中は岩の硬さに負けて機体がずれることがあります。そうした状況下でも、設計図通りの自動掘削を可能にするためには、いくつもの壁が存在していました。

また、カメラなどのセンサ技術やプログラムでの機械制御技術など、いくつかの要素技術は社内で保有していましたが、それらはあくまで既存システム構成を踏襲することがベースとなっています。今後のAIを利用したデータ分析・活用を踏まえると、効率的かつ拡張性があるシンプルなシステムを、ゼロから新たに構築する必要がありました。

そこでまず、研究開発に関わる部署として技術開発部の体制を刷新し、各事業部からスキルを持った人材の集約、情報システムグループとの統合などを実施しました。また、シミュレーション技術の高度化を進めました。単に2次元の設計図面を3次元化して機械的な干渉を調べるシミュレーションでは、実際に自動運転でロードヘッダを動作させる際に起こり得るさまざまな状況に対応できません。ロードヘッダの構成要素をできる限り詳細化・モジュール化し、トンネル掘削の環境自体やAIの学習環境なども一体化することで、シミュレーションの精度を高めています。

成果と今後の展望

将来的に作業現場での効率化や少人化、メンテナンスなどへの応用を目指す

ロードヘッダ自動自律運転の研究プロジェクトは、現時点では検証を繰り返し、要素技術を少しずつ自社の知見・資産として蓄積している段階です。初めは机に載る程度の大きさの模型で自動運転の検証をしつつ、最終的には自社工場内に作成した約20メートルの模擬トンネルに実際のロードヘッダを入れて、実稼働を想定した検証を進めています。

また、研究活動の一端として、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)が公募している「宇宙探査イノベーションハブ」の研究提案募集(RFP : Request for Proposal)のアイデア型研究に選出され、2018年から約1年間「土木作業機械の知能化」というテーマで共同研究に取り組みました。さらに、お客様と共同で自動運転機能を付加した建設重機の開発を進めており、実際の工事現場での稼働に向けて準備を進めています。

三井三池製作所では、この研究を続けていくことで作業現場での効率化や少人化、稼働機械の一元管理、メンテナンス業務への応用などを目指しています。また、この研究活動を1つの「起爆剤」として、過去の資産をこれまで以上に活用する「これからの新しいモノづくり文化」を社内に根付かせ、結果的にお客様満足につなげていきたいと考えています。

今はどの企業にも「時代に即した変革」が求められています。産業機械においても、お客様の注文通りに製作するだけでは、企業としての価値を失いかねません。これからは、従来とは違う新しいコンセプトを掲げ、時代に即した「高効率・高品質・付加価値」のある魅力的な製品を自ら提案していくことが重要です。要素技術の研究から商品化、そして「お客様に喜ばれる製品作り」へとステップを重ね、DXなど時代の流れを取り込みながら、最終的にお客様の利益に貢献できるよう本研究を継続していきます。